認知を変えれば成績ビリが大変身!

言葉かけと絵本で、子どもの未来を輝くものに(前編)

坪田信貴 × 仲宗根敦子 対談

子どもの「ものの見方、とらえ方」を良いものに変える言葉や絵本とは?

ミリオンセラー「ビリギャル」著者であり教育者の坪田信貴氏に、絵本未来創造機構代表理事の仲宗根敦子が「子どもへの声かけ」や「絵本の活用法」などを聞いた。

(7月13日に行われた絵本未来創造機構主催の対談「言葉が子どもの未来をつくる」から抜粋し、2回に渡りお送りします。構成:小川晶子)

◆絵本は子どもにとっても大人にとっても、よい認知をつくる最高のツール

仲宗根敦子(以下、仲宗根) 坪田先生の新刊『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』、早速拝読しましたが素晴らしい内容ですね。私は絵本読み聞かせを広める活動をしていますが、ご著書の中に絵本のことも出てきていて嬉しかったです。

坪田信貴(以下、坪田) ありがとうございます。僕の母親はシングルマザーで、女手一つで僕と妹を育ててくれました。母は本当にたくさんの絵本を読み聞かせしてくれたんです。寝る前はもちろん、朝起きてすぐに絵本を読んでくれたという記憶もあります。僕もいま2人の娘に、絵本の読み聞かせは毎日やっています。仲宗根さんの絵本の活動には共感します。

仲宗根 そう言っていただけて感激です。私自身も、警察官だった夫が殉職してからシングルマザーとして息子2人を育てる中で、絵本には本当に助けられました。フルタイムで働いていると、平日はどうしても子どもとの時間が短くなってしまいます。それを取り戻すかのように絵本の読み聞かせは毎日必ずやりました。子どもたちが嬉しそうだったのはもちろん、「私はちゃんとお母さんをやれている」という自分の肯定感にもつながっていました。私も、寝る前だけではなく、子どもが学校に行く前だったり、お風呂に入る前だったり、ちょこちょこと時間を見つけては読み聞かせしていました。坪田先生のお母様もそうだったんですね。

坪田 絵本は、思春期の親子関係にもいいんですよね。これまで主に中学生から高校生の子たちに「子別指導」をする中で、親御さんに対して心を閉ざしてしまった子も多く見てきました。僕に対してはいろいろ話してくれるんですが、親御さんには何も言わないのです。そういうときは、親御さんに「お子さんが小さいころによく読んであげていた絵本があったら、お子さんの横で音読してみてもらえませんか?」って言うんです。「そんなことして意味ありますか?」って半信半疑だった方も、実際にやってみると、効果テキメンなんですよ。小さいころに絵本を読んでもらっていた思い出がよみがえってきて、固くなった心がほどけていくのでしょうね。

仲宗根 『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』の中にも書かれていましたね。絵本が「関係性が良かった頃を思い出すトリガー」になるというお話。私も、思春期のお子さんとの関係が難しいというご相談をよくいただくのですが、「聞いてなくてもいいから、絵本を読んでみて!」とお話ししています。そうすると、みなさん「ミラクルが起きました!」って報告くださるんです。

坪田 この本の中で言っている「言葉が認知をつくる」という意味でも、絵本はとてもいいツールだと思います。子どもが世界をどう捉えるか、どう認識するかというのは、どんな言葉を浴びてきたかによるんですよね。親が日本語で話しかければ日本語で思考するようになるし、英語で話しかければ英語で思考するようになるのと同じように、浴びてきた言葉を使ってものごとを捉えます。もちろん、子どもに対して良い言葉をかけたいと思うのが親心。でも、何もない状態では難しいじゃないですか。絵本の言葉は洗練されていて、子どもの情操にいいように作られています。とてもいい言葉のシャワーになります。

それだけじゃありません。絵本を読み聞かせる側の大人にとっても、いいのです。30年、40年生きていれば、イヤなこともそれなりにあるものですが、絵本に描かれているピュアな世界の言葉を読み、声に出していると「人生って素晴らしいものだよね」「人間関係って素敵なものだよね」と認知を新たにすることができるのです。最高のツールですね。

仲宗根 本当におっしゃる通りです。いま言ってくださったように、絵本が子どもにとっていいのはもちろん、大人にとっても素晴らしいものであることを確信して活動しているので、とても嬉しいです。

◆現状のレベルは問題ではない!「ビリギャル」を育てた声かけとは

仲宗根 「ビリギャル(『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』)」は私も何回も読みました。ビリギャルの小林さやかさんはあちこちで講演もされていて、いま大活躍されていますよね。坪田先生は、どうやって声かけをされていたのでしょうか。そのあたりをぜひ教えてください。

坪田 おかげさまでたくさんの方に読んでいただき、映画を見てくださった方も多くて、よく「盛っているでしょ」と言われるのですが逆です。おさえて書いて、あれなんです(笑)。

ビリギャルのさやかちゃんは、スタート時は小学4年生くらいの学力レベルでした。Hi,Mike! を「ヒー、ミケ!」って読んでいましたからね。中学1年生の英語の教科書の1行目が読めていないということです。ハーイも読めないか~と思いました。でも、ポジティブな面を見ると、ローマ字は読めている。

仲宗根 確かに、そうですね(笑)。

坪田 それから、歴史の教科書を見ていて「先生、この聖徳太子っていう女の子、チョーかわいそうじゃね?」って言ってくるんですよね。ん?女の子? 僕はこれまで聖徳太子を女の子だと思ったことは一度もなかったんですけど、確かに論理的考えれば女の子だと思うかもしれない。逆になぜ、僕は聖徳太子が男だと知っているんだろう?と思いました(笑)。それはいいとして、かわいそうってどういうことだろう。聖徳太子は偉い人物ですし、あまりかわいそうという捉え方はしないですよね? だから「どうしてかわいそうなの?」と聞きました。そうしたら、「チョーデブだったからこんな名前つけられちゃったんでしょ?せいとくたこって」と言うんです。

仲宗根 衝撃的です(笑)。

坪田 あ、でも、聖とか徳という漢字は読めるんだ!って思いました(笑)。この話をするとみなさん笑うんですけど、1年半後に慶應大学を受験するという状況で、塾の先生だとしたら、どう思います?

仲宗根 普通は、絶望的だと思いますよね。

坪田 そうですよね。でも、受験って実は簡単なんです。答えがありますから。学習すれば誰でも到達できるようになっています。勉強で評価するというのは、実は平等なんですね。これがスポーツだったら、体格で差が出てしまってどうにも埋められない部分があるし、音楽でも絶対音感が左右したりするので平等と言いにくいでしょう。でも、勉強は、誰でもやればやっただけできるのです。それじゃあ、問題は何か? 認知なんです。

坪田塾の入塾時の学力を調べると、学年でビリが15%ほどいました。1学年に300人くらいいるとして、成績ビリということは300分の1ですよね? 0.3%くらいしかいないはずなんです。それが15%も集まっているのですから、名古屋中のビリが集まっていたのでしょうね(笑)。そういった子たちは、ほぼ100%、親御さんに連れられて塾に来ています。自分から塾に入って勉強しようと思っている子はいません。親御さんはなんとかしなきゃ、やればできるはずよと思って塾に連れてきているのですが、本人は成績を上げたいと思っていないし、できるとも思っていない。だから、その認知を変える必要があるんです。認知を変えるとどうなるか。その後学んでいって、塾生のセンター試験の平均は8割を超えます。これは旧帝大レベルです。つまり、どんな子でも認知を変えれば1年2~3か月で旧帝大レベルの学力までは持っていくことができるんです。

仲宗根 すごいですよね。ビリギャルのさやかちゃんに対しても、「現状の学力レベルからいったら、このくらいの大学かなぁ」といった声かけではなく、「慶應大学って知ってる?」と聞いたときに「知ってる、知ってる!イケメンでしょ?」という反応だったので、慶應大学に通うキラキラした未来を感じさせる言葉かけをされたのでしたよね。その子の価値観に合ったワクワクを見せると、子どもの目は輝くのだというのが印象的でした。

坪田 現状のレベルは実は問題ではありません。成績がよくない子や、その親は「人の頭の良さはあらかじめ決まっているもの」という「固定的知能観」を持っていることが多いんです。「自分は頭が悪いから仕方ない」という考え方です。一方、能力は有限ではなく、経験や努力によって伸ばしていくことができるという考え方を「増大的知能観」と言います。言葉かけによって、固定的知能観から増大的知能観に認知を変えるだけで、成績は上がっていきます。

仲宗根 なるほど。声かけによって、その子自身のもののとらえ方、考え方が変わり、学力がちゃんとついてくるのですね。

坪田 現在のさやかちゃんは講演会などで活躍しつつ、教育についてもっと学びたいと思っていて、アメリカの大学院に行くためにまた勉強しています。ワクワクする未来が感じられれば、自ら学んでいくのです。

後編(「人に迷惑をかけるな」ではなく、「困っている人を助けよう」)へ続く